冬の匂いと記憶

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『今日、冬の匂いを感じました。どこかとても懐かしい匂いです』
思い起こされる情景は、辺りがすっかり薄暗くなった冬の夕刻、
当時通っていた盛岡市内の保育園から5時半過ぎに母親と納豆
巻きを片手に徒歩で帰宅する幼少期の思いです。自宅と保育園
は片道40分の距離でた。母親はよく、途中にあるスーパーで
なが〜い納豆巻きを買ってくれ、私はそれを口一杯にほおばり
ながら雪をぎゅぎゅと踏みしめ帰りました。
納豆巻は、帰宅途中、私を飽きないようにとの母親の配慮だっ
たのでしょう。
ところで、冬の匂いと聞いて共感できる方、何人いらっしゃる
でしょうか?今の子ども達は、冬の匂いと聞いて共感してくれ
るのかな?ふとそんな事を考えています。
日本、特にも東北は四季がはっきりと肌で感じられる世界でも
特別な地域です。そんな環境に小さい頃からどっぷり浸かって
いると、何となく季節毎の『匂い』を感じる(理解)できるよ
うになりました。
○初春 
雪がとけて新芽が萌える頃の風の匂い
○春  
近くの牧場から流れ届く施肥の匂い
○雨季 
梅雨の前触れか、どんよりと雲が立ちこめ、じっとりと重たい
空気の匂い
○盛夏 
突然の夕立、日中に熱せられたコンクリートから湧きあがる蒸
気の匂い
○秋  
隣の家の台所から届く香ばしいサンマを焼く匂い
○冬  
冷たい空気にとともに流れてくる薪やヒーターの匂い
私の幼少期は、現代に比べれば不便な生活でしたが、それが故
に、生活がとても変化に富んでいたように感じます。人の息づ
かいが今にも聞こえてきそうな、そんな豊かな生活、そして地
域だったからこそ、多くの季節の匂いを当時の情景と共に記憶
することができたのかも知れません。
季節の変わり目はいつも、幼少期の情景(記憶)がす〜と、ご
く自然に呼び覚まされ、些細なことだけど、何となく幸せを感
じる瞬間です。子ども達にも将来、この小さな小さな幸せを感
じることができる、そんな経験をたくさんさせてあげたい、そ
んな場を作りたい。森のようちえんやスノーワンダーランドが
目指すもの、本当はとっても単純なのかもしれないな、と最近
じんわりと感慨にふけっています。
葛巻と関わる、または関わっていただいた子ども達が、今・ど
こで・どんな匂いを感じているのか。きっとその匂いは思い出
と共に、将来の人生を豊かにしてくれることでしょう。
そのためには、やはり、変化に富んだ自然の中へ、一歩踏み出
すことが近道だと信じています。
残念ながら、転勤で森のようちえんを静かに卒業された子ども
達とママパパ、スノーワンダーランドを卒業して高校性、大学
生、社会人に進んだ当時の子ども達。いつまでも、この思いだ
けは共感できることを願っています。
きむ
○蛇足
既にご存じの方も多いと思いますが、特定の匂いがそれにまつ
わる記憶を誘発する現象は、フランスの文豪マルセル・プルー
ストの名にちなみ「プルースト効果」として知られています。

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